大半の人にとって「住居費」が人生で一番お金がかかるものだろう。
よって、誰しもがお得な判断をしたいと考えていると思う。しかし、そんな大事な「住居費」について、ちゃんと勉強もせずに判断してしまう人が多く、非常に危険だと思っている。
ということで、今回はそんな住居費について、特に常に議論になる「賃貸と持ち家はどちらがお得なのか」問題をテーマとして今回は書きたいと思う。
目次
- まずはちゃんと勉強すべし
- 「賃貸」と「持ち家」のメリット・デメリットとは
- 「賃貸で家賃を払うのであれば、住宅ローンを組んで家を買ってしまった方がお得」理論について確かめてみよう
- 住宅ローンで家を買うときの簡易シミュレーション
- 賃貸の簡易シミュレーション
- 出費を抑えるだけであれば賃貸が効率的
- 人生計画に合わせた「賃貸と持ち家のハイブリット活用」のススメ
「賃貸」と「持ち家」のどちらがお得か考える前に、まずはちゃんと勉強すべし
まず「賃貸と持ち家どちらがお得か」を考えるにあたって、改めて「住居費というのは人生で一番お金がかかる領域。しっかり勉強しなくてはならない領域」だということを認識する必要がある。
大半の人はしっかり勉強してから、自分が賃貸を選択するのか、家を買うのかを判断していると思うが、意外にもほとんど勉強せずに、風の噂程度の情報を真に受けて判断してしまう人もいるようである。
本来であれば、人生で一番お金がかかることなのだから、義務教育で勉強してもいい内容だと思うのだが、学校では誰も教えてくれないので、自分で勉強するしかない。もし、この記事を読んでいる人の中で、そんな勉強はめんどうくさいなと思う人は、ことの重大さを認識した方がいい。
改めて言うが、人生で一番ここにお金を使うのだ。しっかりと判断したいのであれば、しっかり勉強して、様々なケースの住居費のシミュレーションがたてられるくらいにはならないとまずい。そうしないと、結局どっちが損か得かなんて自分で判断できないのだから。
「賃貸」と「持ち家」のメリット・デメリットとは
「賃貸」と「持ち家」のどちらが良いか考えるにあたって、まずは、各々のメリットデメリットを整理しておこう。一般的に「賃貸」と「持ち家」のメリット・デメリットは下記のような感じである。
<賃貸のメリット>
- 生活に合わせて物件や家賃を変えることができる
- 固定資産税や都市計画税の支払いがない
- 修繕費の支払いがない。(基本的には大家さんが何かあれば修繕してくれる)
- 天災リスクがない
- ローン問題に困ることがない
- 支出の想定が容易
<賃貸のデメリット>
- 毎月家賃を払い続ける必要がある。
- 家賃を毎月支払っても資産が残らない。
- 自分の思い通りにリフォーム等できない。
- 空いている賃貸物件の中から選ばなくてはならない。
<持ち家のメリット>
- 自分で好きなように家の間取りやデザインを決めることができる
- 自分の好きなようにリフォーム等できる
- ローンの返済が終われば資産として残る
- 債務者が亡くなった時に負債が一気になくなる(団体信用生命保険)
<持ち家のデメリット>
- 気軽に引っ越しができない(収入・ライフスタイルの変化、ご近所問題等)
- 住宅ローンを組んだ場合、支払い完了まで毎月固定の金額を払い続けなくてはならない
- ローン返済ができなかった場合でも残債が残るケースが多い。最悪自己破産する。
- 固定資産税や都市計画税がかかる
- 物件代(建物・土地)以外に住宅購入時の諸費用や修繕維持費関係で様々なお金がかかり想定が難しい。
- 天災のリスクがある
「賃貸で家賃を払うのであれば、住宅ローンを組んで家を買ってしまった方がお得」理論について確かめてみよう
このように、「賃貸」と「持ち家」のメリット・デメリットをみていくと、各々メリット・デメリットあるものの「賃貸で家賃を毎月払うのであれば、住宅ローンを組んで家を買ってしまった方が得なのではないか?」ということを直感的に思う人が多いだろう。これはつまり「家を買って、住宅ローンを払い終えてしまえば、それ以降お金はほとんどかからないからお得だし、老後の不安もなくなる」ということなのだと思う。
でも果たして本当にそうなのだろうか?ちょっとシミュレーションしてみよう。
持ち家の場合の簡易シミュレーション
下記の条件で持ち家を購入した場合をまず見てみよう。
<今回の持ち家購入のシミュレーションの条件>
- 新築戸建て(2LDK)
- 都内オフィスに通いやすい横浜某所
- 駅徒歩15分以内
- 建物・土地価格:3980万円
- 住宅ローン金利:0.7%(35年ローン、借入金額:3980万円)
この場合ざっと70歳になるまでの35年間で約5,900万円ほどかかる(約14万円/月)。そして、85歳になるまでの50年間で約6,400万円(約10.6万円/月)、100歳になるまでの65年間で約6,800万円(約8.7万円/月)という感じである。
図:持ち家にかかる費用
たまに、家を買うには建物・土地代しかかからないと思っている人がいるので、念のため補足しておくと、持ち家を購入するにはまず初期にかかる諸費用がある。仲介手数料や登記費用、各種税金などで上記の条件の場合は大体300〜400万円かかると想定される。またそれとは別に家具、家電代や引っ越し代もかかる。また購入後のランニングコストとして修繕費や固定資産税・都市計画税、火災・地震保険なんかもかかってくる。あと当然、住宅ローンを組むのであればその金利もかかってくる。そんな金額も合わせると35年間で約5,900万円、50年間で約6,400万円、65年間で約6,800万円というわけである。
賃貸の場合の簡易シミュレーション
次は賃貸のケースを見ていこう。ほぼ同じような条件の物件を賃貸で借り続けた場合のシミュレーションは下記のようになる。
<今回の賃貸のシミュレーションの条件>
- 賃貸(2LDK)
- 上記持ち家と同じエリア
- 駅とも15分以内
- 築年数20年以内
- 室内洗濯機置場、バス・トイレ別、温水洗浄便座、エアコン付、TVモニタ付きインターホン
- 家賃:10万円/月(※上記条件で賃貸検索サイトで検索して出てきた賃貸物件のおおよそ平均値程度の家賃を想定)
この場合ざっと70歳になるまでの35年間で約4,500万円(約10.6万円/月)ほどかかる。そして、85歳になるまでの50年間で約6,400万円(約10.6万円/月)、100歳になるまでの65年間で約8,300万円(約10.6万円/月)という感じである。これを上記の持ち家と比較すると70歳までであれば持ち家に比べ約1,400万円安いが、85歳でその差はなくなり、100歳になると1,500万円高いという結果になる。
いわゆるこの85歳以上でかかってくるお金が、「賃貸で家賃を毎月払うのであれば、住宅ローンを組んで家を買ってしまった方が得なのではないか?」という話に繋がってくるのである。
図:持ち家と賃貸(ほぼ同条件の物件)の費用比較
ただよく考えれば、出費を抑えるだけであれば賃貸が効率的
ただし、よく考えてみてほしい。持ち家は一回ローンを組んでしまえば出費はほぼコントロールできないが、賃貸は出費を自分でコントロール可能である。
例えば60歳になって子供も独立したため、少し地方の家賃5万円の1LDKに引っ越したとしよう。その場合70歳になるまでにかかる費用は約4,000万円(約9.5万円)に抑えることができ、100歳になるまでには約6,300万円(約8万円/月)という感じになり、持ち家に比べ500万円安くなる。
図:持ち家と賃貸(ライフスタイルに合わせて調整)の費用比較
このようにシミュレーションしてみるとわかると思うのだが、単純に出費を抑えたいだけなのであれば、借金をしてまで持ち家なんて大きな買い物をせずに、自分のライフステージや様々な時代状況に合わせて柔軟に出費をコントロールできる賃貸の方が出費を抑えるには効率的である。
人生計画に合わせた「賃貸と持ち家のハイブリット活用」のススメ
ただ、賃貸と持ち家の比較の際に出てくるのは出費の問題だけでなく、定年後の高齢者は賃貸が借りづらいという問題もある。
今後この問題についても法整備が進み、解決する方向に向かう可能性があると思うが(超高齢化社会、老後の年金問題や空き家率の上昇等によりこの問題について法整備しないといけない状況になってきている。ちなみに野村総合研究所の予測だと2033年の空き家率は30.2%にのぼると予測されている)、定年前に持ち家を買うという選択肢もある。
上記賃貸のシミュレーションの場合、60歳までで約3,200万円ほどしか使っていないので、その分お金を貯めておいて、子供も独立したタイミングで老後のための家を地方に中古で1,000万円ほど一括でこのタイミングで買ってもいい(都心の新築では4000万円する物件でも地方であれば中古で1000万円もしないことはざらにある)。
そうすれば、85歳になるまでの50年間の費用は約5,200万円、100歳になるまでの65年間で5,700万円を支払う計算になり、上記の持ち家に比べて1,100万円ほど安くなるのである。
図:「持ち家」と「賃貸・持ち家ハイブリット活用」の費用比較
そもそも「都心への通勤・子育て時代」に必要な家というのは、大半の人にとって贅沢品と言っても過言ではない。一括で購入できるような資金があるのであれば問題ないが、大半の人が無理をして買う(借金して買うのだから無理をしているだろう)。老後が不安なだけであれば、都心への通勤や子育てが終わってから、老後のライフスタイルに合った家を買った方が圧倒的に安く持ち家を購入することができる。
このように見ていくと単純に「賃貸で家賃を毎月払うのであれば、住宅ローンを組んで家を買ってしまった方が得なのではないか?」とか「持ち家を買ってしまえば、それ以降家賃はかからないからお得」とかそんな単純ではないことがわかるだろう。
「私は賃貸派」、「私は持ち家派」なんて不毛な話はやめて、自分の人生計画に合わせて、賃貸と持ち家をうまくハイブリットで活用して、各々の良い面をうまく利用する。それが目指すべきところなのではないかと私は思う。
お金は大事だよ。
春太郎